•  フットパス活動の記録

黒川
2020.11.29
首都圏近郊に残る伝統的な里地里山景観
11月29日(日) 天気:晴 参加者:10名

黒川地区は平氏落人伝説も残る川崎市北西端辺
境に位置し、20年前に大規模住宅開発を実現する一方で、川崎市の線引きで農業振興と大規模な里山緑地保全策が図られた結果、交通の便が良い首都圏近郊ながらも、伝統的な里地里山景観が残された貴重な地域である。
近世の江戸近郊生活が偲ばれる脇往還や寺社跡が残り、大正期に神社統合で地区唯一の鎮守となった汁守明神社を核とする村落共同体的農村文化も今なお残っている。

Ⅰ) 午前ルート順に説明
① 汁守神社集合 10:20
参加者利用が黒川駅と「日影」バス停に分かれたため汁守神社を新たな集合地とし、資料を配付のうえルート説明を行った。

汁守神社は明治39年(1904年)一村一社の命を受 け、大正3年(1914年)上黒川の八幡大社、中黒川の 天王神社、下黒川の日枝神社が合祀した。その結 果、黒川地区唯一の鎮守社となり、祭礼を通して 住民結束の要となっている。五穀を司る保食命(う けもちのみこと)が主祭神であり、府中大国魂神社 くらやみ祭の汁を調整したのが社名起源と謂われ るが定かではない。境内では早春から深紅のヤブ ツバキ、怪しい魅力のタマノカンアオイ、白く可 憐なイチリンソウも楽しめる。

② 布田道谷戸ルート 小野路宿(町田市)と布田五宿(調布市)を結ぶ布田道は黒川西部では2ルートに分かれていたと謂 われ、谷戸に下りて谷戸縁を縫う当ルートと都県 界に沿った尾根通しルートが、汁守神社前で合流 し坂浜(稲城市)方面に続いたと推測される。

③ 海道ひだまり公園 旧黒川村に8つあった小字の一つで、この付近を指す海道(街道か垣内の意か)の名を冠した公園 場所である。住宅公団が造成時に設置。その横を 登る里山道は瓜生(多摩市)黒川往還に繋がる。



④ よこやまの道 はるひ野開発のコンセプトが里山と共存する住
宅街であったため、住宅街区縁の北西を走る尾根 筋に古くからあった自然発生的な尾根道を、住宅 公団、多摩市、川崎市が整備維持する遊歩道で東 西延長約10kmに及ぶ。尾根地形から全体に眺望 が良いし明るくて快適に歩ける。

⑤ 丸山
山容からスクモ(わら)塚とも呼ばれた川崎市最高標高地点。昭和59年(1984年)黒川地区への配水を目的として川崎市水道局が高区貯水池を設置。古い三角点は撤去された模様だが、川崎市の現状等高線地図を見ると標高148m。昔は裏に疫病死者を荼毘に付す火葬場があった由。

⑥ 防人見返りの峠(標高140m) 11:30
よこやまの道に設営された眺望の良い休憩所であり、冬場晴天時には大山から富士山、農鳥岳、北は赤城山までのスカイラインが一望出来る。宮田先生の歴史古街道団による古偲ぶロマン溢れた命名も功を奏して、里山ハイカーにとって良き憩いの場となっている。




⑦ 尾根からの下降道 (防人峠の南西約300m)
よこやまの道からオキノ谷戸に下る林間の山道。鷹ノ巣道と並んで黒川と瓜生を結んで物資往来に利用されたと思われる。足元が全体に滑りやすく、特に傾斜が急な最後の下りに注意。



⑧入り谷戸 山道を下りた所が狼谷戸の入口で、ここからは
広い舗装路となる。貸し農園が多い一帯を抜ける と少し広めの入り谷戸地区となり、水田と畑が混 じる。鷹ノ巣谷戸への登り口から旧道を辿れば川 崎では珍しいリンゴ畑(イリ市川氏圃場)もあり、 良く手入れされた果樹園や水田の景観が楽しめる。

⑨ 毘沙門堂 左手の寺ノ谷戸を登れば、かつて汁守神社も管理していた真言宗 金剛寺の跡と毘沙門大堂と称さ れた小祠がある。金剛寺は檀家が少なく明治初期 の火事で廃寺となり、信徒は概ね本寺である坂浜 高勝寺の檀家になった模様。

⑩橋場
三沢川源流部に架かる八幡橋があった橋場は上黒川の地理的中心であり、今も小正月のセーノカ


ミ(ドンド焼きを意味する塞ノ神/歳ノ神の当地訛 り)が刈り終えた田圃で行われている。南に入る沢 谷戸を越えれば真光寺(町田市)に至る。

⑪ 地神塔 農民を守り豊作を祈って建てられた地神塔、病災から村を守る庚申塔、道路の悪霊を払う道祖神、 水の霊を祀る水神様、養蚕を祈る糸巻型石碑等が 古い道標と共に橋場周辺に置かれていた筈ながら、 整理され山裾の一角にまとめられている。

⑫ 柿生発電所 忍野八海に端を発する相模川水系の水が津久井湖経由、下九沢分水池から川崎市長沢浄水場に至 るまで管経2.4m長さ21.4kmの導水管を通り、ここ で発生する自然落差12.2mを利用した水力発電所。昭和37年(1962年)神奈川県企業庁が設置し最大680kwhを発電している。

⑬ リストランテ “アベーテ” 12:30~14:00
小田急傘下ジローレストランの郊外一軒家イタリア料理店であり、昼は落ち着いた雰囲気のなかリーズナブル料金でコースランチが楽しめる。

Ⅱ) 午後ルート順に説明
① 小田急線はるひ野駅小田急多摩線開通から30年経った平成16年(2004年)黒川駅~永山駅間に新設された最近珍しい地上駅。極小規模ながら太陽光と風力発電装置を有し、屋根はなだらかな里山形で、構内は鉄骨ポリカ張りで明るく簡素モダンな意匠が特徴。

② よこやまの道 開発時の環境保全協議で支尾根状地形と植生を
残すためにトンネルが掘られた。その上に続く山 道を辿って よこやまの道に登り切ると、さくらの 広場が、ここでは、春にはエドヒガンの独立木と 脇にあるコブシの大木が見事な花を咲かせる。



③ 池谷戸水辺緑地 尾根から湧く水を溜めた池と周辺の緑地を含む
谷戸源頭部は、地元ボランティアによって管理維 持され住民の憩いの場になっている。夏にはホタ ルが舞い子供達で賑わう。元は米作りのため水温 が低い湧水を高める目的で作られた溜池と思われ る。



④ 海道緑地遊歩道3年前川崎市が海道特別緑地保全指定地区を拡大。総面積の約8割を市有地化し、休耕田を含めた公園的緑地として遊歩道も整備した。水田はなくなったが手入れの良い谷戸が奥深く続いて景観は秀逸であり、11月には点在する芸術作品が良く映える里山舞台を提供している。







⑤ 海道谷戸 谷戸奥に立つ1軒農家オヒキザワ市川氏が今も
農業に従事している。市街化調整区域指定もあり 谷戸筋の田畑も維持され、住宅街の脇で今なお昔 ながらの谷戸景観が残されている。

⑥ セレサモス麻生店 平成20年(2008年)川崎市農業協同組合JAセレサ
が汁守神社前に新設した大型生産者直売店。前身 の黒川農産物直売店と同じく新鮮地場野菜が売ら れているが価格的には高くなった。

⑦ 「日影」バス停解散 15:50
バスで鶴川に向かう人と黒川駅に戻る人がいるため、当バス停が解散場所となった。


Ⅲ) 住宅/農業/緑地の調和事例 黒川地区の昔は“川崎のチベット”と呼ばれる辺
境の地であったが、鉄道駅が3カ所に開設される に至り、はるひ野が都心へのアクセス良好なベッ ドタウンとして計画通りに開発された。

農地の乱開発を防止し健全な農業の発展を図る ため、市街化調整区域や農業振興地域が指定され、黒川上地区と黒川東地区では土地改良事業も済ませ、都市近郊型農業が盛んである。

更に自然環境と里地里山景観を保全するため、 川崎市により特別緑地保全地区が17カ所(43ha)、 緑の保全地域が4カ所(4ha)指定され、黒川地区総 面積の16%にも達している。

その結果、黒川地区では住宅開発、農業振興、 里山保全とそれぞれ相反する目的間の調和が良く 取れており、首都圏近郊における大規模住宅開発 の好事例を提供している。

(合田英興)
2020.11.29 00:00 | 固定リンク | 未分類