[ 講師:日本植物学会副会長山田隆彦]
ちょっと珍しい植物園、秋の植物観察をしましょう
11月5日(土) 天気:晴参加者:5名
薬用植物園では、薬用植物だけではなく、園芸植物、野生植物、海外のものなど種々の植物が見られます。しかもほとんどに名札が簡単な説明とともに付けられているので、その植物のことを知ることができ有り難いです。写真を撮るときには、名札も別に撮っておくと、後の写真整理も楽にできます。
この植物園にはたくさんの種類が植えられており、一日中居てもあきません。今回の観察会でぜひ見ていただきたかったのはサフランです。サフランの花は赤い雌しべがとてもきれいです。これから黄色の色素をとり、染料や香料などに使われています。特に、古代ギリシャではサフランの黄色を珍重し、王族だけが使用できるロイヤルカラーとされていました。アヤメ科の植物で西南アジア原産です。ギリシャで最初に栽培されたと言われています。花期は10~12月で、橙赤色の三本に分かれた花柱が特徴です。よく似たものにイヌサフランがあります。「イヌ」がつくと役に立たないことを意味しますが、アルカロイドを含む毒草です。花期はサフランよりも1ヵ月早く9月ごろから咲きだし、赤い雌しべはありません。私たちが訪ねたときはすでに花は終わっていました。
サフラン
次に見て欲しかった植物はカンレンボク(旱蓮木)です。中国雲南省原産で、別名をキジュ(喜寿)といいおめでたい木として、喜寿になった方に記念で贈られるという話をよく聞きますが、大木になる木をいただいてもちょっと困ります。
訪ねた時は、ちょうど実がなっていて、その形はパイプウニに似ています。別な表現をすると、ごく小さなバナナの実が球状に集まった姿をしています。果実や根には抗がん作用の成分が見つかっているそうです。
カレンボクの実
この植物園が他の植物園と違うのは、法律で禁止されているケシの栽培をしていることです。医療用や研究用の栽培ですが、監視カメラが設置された厳重な二重の鉄柵の中で栽培されており、5月には色とりどりのケシの花を鉄格子の外から楽しめます。
ケシ栽培
菊の種類もいくつか植えられています。黄色の花のキクは、シマカンギクとキクタニギクです。シマカンギクは関西以西に分布し、キクタニギク(別名アワコガネギク)は本州と九州に分布します。葉の切れ込み方とか、頭花の大きさなどの違いがありますが、パッと見た目ではよほど慣れないと区別できません。中部地方以北で黄色の花の野生のキクはキクタニギクと見てよいです。
シマカンギク キクタニギク
リュウノウギクも満開でした。名札には、「民間療法で、冷え・神経痛・浅い外傷などに入浴剤として使用」とあります。このキクは、小野路などで簡単に見られます。
リュウノウギク
アカザ(下図)の茎が残っていました。アカザは老人の杖にするには、軽くて丈夫で最適です。水戸黄門もこれを使ったとか。名札には「若葉は食用になるが、多食すると日光皮膚炎を起こす」とあります。東京近辺では、アカザシロザのほうがずっと多くみられます。アカザの赤く見える部分は、粉状毛(水毛)といい、多くの水を含む細胞で、ここに赤い色素が入っているので赤く見えます。
野草園では、リンドウが満開でした。町田の里山や晩秋の山野で咲く最後の花です。「リンドウの花びらに見られる緑色の斑点に葉緑体があり、光合成を行っていることが発見されています」と、「みどりのゆび」で一昨年、小野路を案内した多田多恵子先生が『趣味の園芸』に書かれています。名前は漢方の「竜胆」からで、センブリと同様に苦味があり、健胃剤として用います。
リンドウ
帰りは「玉川上水」沿いに玉川上水駅まで、渓流沿いに生えている木々を楽しみながら散策しました。私も皆さまと一緒になって楽しみました。(文と写真:山田隆彦)
植物の観察にお勧めのユニークな植物園でした。
初めての訪問です。医薬品の原料となる薬用植物などを収集・栽培。ケシ・アサといった麻薬や危険ドラッグがとれる植物も試験栽培しているユニークな植物園です。身近な植物含め約500種の野生植物と1,500種の栽培植物。すべてタグ付、植物名と生薬としての名前、用途などが説明され、身近な植物にこんな用途があるのかと、読むのも楽しかったです。山田先生も、よく花の写真とタグを撮りにくるそうです。その後、山野草の写真などで「東京都薬用植物園」が撮影場所として記載されている記事が目につきました。
普段は、春の花を楽しんでいる植物も、秋に実をつけている様子を見ることができました。いつもは花を見るだけですが、今回、初めてびっしりと詰まったスミレのタネを見ました。
スミレのタネ
また、春に鮮やかな黄色い花が楽しみなサンシュユですが、秋には真っ赤な実でアキサンゴの別称も。民間療法では薬用酒にして強壮剤として利用。また、ナツメの実は、乾燥した果実は食材でもありますが、タイソウ(大棗)という生薬で、葛根湯や小柴胡湯など主要な漢方処方の構成生薬だそうです。林地では、黄色いヤクシソウの群生が見事でした。
サンシュユの赤い実 ヤクシソウの群落
( 文と写真: 田邊博仁)