鶴川の土地や開発の歴史を顧みながら四つの古民家を巡ります
1月26日(日) 天気:晴 参加者:31名
小野路宿がフットパス発祥の地とするならば、千都の杜のあるかつての能ケ谷の森は、そのきっかけとなった場所でもあります。
鶴川駅周辺は空も大きく、なんだかのどかな雰囲気が漂うのは、かつて多摩丘陵の自然の中に集落が点在する豊かな場所であった由縁でしょうか。そんな集落のひとつが能ケ谷で、今でもその面影が随所に残っています。最初に訪ねる駅前の「鶴川香山園(つるかわかごやまえん)」は、池泉回遊式庭園と書院造りの建物(瑞香殿)がある名家の邸跡で、昨日開園したばかりの都市公園です。ここを起点としてみなさんにお見せしたい鶴川駅周辺のフットパスコースがいくつもできそうな予感がします。
鶴川香山園・瑞香殿をバックに参加者と(写真:田邊)
開園した池泉回遊式庭園と瑞香殿(1906建立)(写真:田邊)
津久井道を東へ少し歩き、鈴木工務店の当主が代々受け継いできた築150年の茅葺古民家「可喜庵」へ。江戸末期に造られた古民家の内部で、住まいの模型展示や古本市を眺めた後、建築家でもある現当主の鈴木さんから、古民家ながら快適な暮らしの研究の場にもなっていることや、茅葺屋根の葺き替えのこと、先に見た香山園の瑞香
殿の棟梁は先々代当主であることなど、興味深い話をお聴きすることができました。
可喜庵古民家と当主からの説明風景
江戸の道であり谷道になっている津久井道から妙行寺の境内を上り、多摩丘陵のエッジからの眺望を楽しむ。はるか三輪の大木の樹形がくっきりと見えました。
丘の上は、かつての能ケ谷の森を開発した大規模住宅分譲地「千都の杜」。隣接する平和台に住む神谷さんより、開発前の能ケ谷の原風景のことや開発の経緯、反対運動のことなどを話していただきました。開発を止めることはできませんでしたが、所有者、周辺の方々、開発者などが歩み寄り、折り合いをつけながら今の千都の杜があるようで、緑道のネットワーク、尾根沿いの緑地の配置、擁壁を緑で隠す、高い緑被率などの配慮に繋がっていったようにも感じられます。
千都の杜住宅地
住宅地の緑道を進むと、能ケ谷神社に繋がっています。「能ケ谷神社」は、真光寺川の東側の丘の上、住宅地の一画にある小さな神社という佇まい。かつては能ケ谷村の鎮守としてランドマークだったのでしょう。神社は区画整理地事業地内に組み込まれ、開発完成当初は禿山となっていたのが20数年を経て、立派な神社の森となっています。戦前、白洲次郎・正子夫妻は能ケ谷に居を構えますが、近くに東照宮(合祀され大正期に能ケ谷神社となる)があることと、造詣の深い「能」の字を冠した地名に縁を感じたからだと、白洲正子の『鶴川日記』に書いていました。
屋根の葺き替えのこと、先に見た香山園の瑞香殿の棟梁は先々代当主であることなど、興味深い話をお聴きすることができました。
神社から平和台の住宅地を抜けると三番目の目的地「みんなの古民家」となります。
みんなの古民家のオーナー石川さんから、江戸末期に造られた古民家のこと、今もカマドで火が炊かれていること、1977年まで暮らしていた母屋を2014年からレンタルスペースとし、シェアキッチン、マルシェなどを開催。古民家を開放していく、まさに「みんなの古民家」利活用のお話を聴くことができました。保存でも移築でも解体でもなく、その場でありのままに古民家をたくましく利活用する優れた事例と感じました。
「みんなの古民家」で石川さんのお話を聞く(写真:田邊)
昼食はみんなの古民家周辺のいくつかの飲食店に分散してとり、最後の「武相荘」へ。
白洲次郎・正子夫妻が1943年に転居してきた藁葺屋根の古民家は見事にリノベーションされ、英国のカントリーハウスといった趣も感じられます。現在の旧白洲邸「武相荘」は記念館・資料館として一般公開されています。この日はちょうど骨董市が開催されており、敷地内は入場無料で入ることができました。
武相荘の骨董市を眺めて、四つの古民家を巡るフットパスを終了しました。
(文と写真:浅黄 善彦)
武相荘
「鶴川の四つの古民家を巡るフットパス」に参加して
町田市鶴川駅近くに、地域の文化的財産を再生した市立公園「鶴川香山園(つるかわかごやまえん)」が1月25日に開園した。それを近隣の古民家が祝う「鶴川OMOTENASHI祭り2025」イベントがあり、NPO法人みどりのゆびもフットパス・里山歩きツアーを企画し、浅黄さんに教えていただき参加した。理事長の高見沢邦郎先生に久しぶりにお会いできた。
出発点は、神蔵家の灸治所として親しまれていたという香山園。瑞香殿が、レストランとして整備されている。1906年に鈴木工務店の先々代が建築した端正な表情の建物である。
次の「可喜庵」は鈴木工務店の茅葺建物である。江戸時代末頃に隠居用の建物として建築されたとご当主からお聞きした。15年前に行われた茅葺の葺き替え時には、市民の方々も作業に参加したという。色々な集まりが企画されて、気持ちよいスペースをつくっている。工務店事務所の建物も色彩や材料の使い方が粋で、素敵な建物だ。
蓮の絵で知られる「妙行寺」の裏手を登って、大規模住宅開発地の「千都の杜」へ。かつては能ヶ谷の森として親しまれた緑地で、開発反対運動を経て、緑の多い質の高い住環境を形成している。
三つ目の「みんなの古民家」は石川家のかつての母屋で、今も囲炉裏など、時々は火が使われている。離れは民泊に使われ、ジンバブエなど海外からの宿泊者との交流が持続的になされている。
また、撮影スポットとしても有名。農の営みを大切にして、近くにある有名な里地の寺家町で古代米を栽培したり、野菜を敷地内で栽培している。最後は、有名な「武相荘」。骨董市が開かれていた。流石に茅葺屋根は凛として風格がある。
スタンプラリーで4つの古民家を訪れて、出発点の香山園に戻り、くじ引きができた。中には3等を引き当てた方もいて、幸先の良い年明けのイベントでした。
(文:若林 祥文)
スタンプラリー3等賞を祝福(写真:田邊)