他のまちのフットパスをみてみよう 春の海風を感じながらの「鵜原理想郷」
2023.04.22
[ 講師:小林 道正 ]
リアス式海岸が続く千葉勝浦の景勝地 大正ロマン散策
4月22日(土) 天気:曇参加者:6名
このコースの楽しみは、リアス式海岸の景色を満喫できる「鵜原理想郷」の散策と、市場食堂の海鮮丼を味わうことでしょう。
<鵜原理想郷とは>
「鵜原理想郷」は、大正時代に別荘地として開発する時に名付けられた海岸台地のことです。分譲に先立って、見晴らしの良い現地で、政治家や実業家の他に、新橋や赤坂から芸者衆を数十人も集めて500人規模の大園遊会を開催したそうです。その当時、外房線は「勝浦駅」までだったのを鴨川方面へ延長し、「鵜原駅」を造らせたことでも、その本気度が伝わってきます。しかし、関東大震災と世界大恐慌のために一大リゾート計画は実現しませんでした。
鵜原理想郷の「大木台」にある「幸せの鐘」の前にて
「鵜原海岸」が海水浴場として賑わっていたのは、日本の国が高度経済成長期のころですが、今ではその面影もありません。一番の良さは水質が良いことと遠浅の砂浜です。ここで3kmの遠泳を行い、身心を鍛える集団宿泊生活を実施している学校があります。私が勤務していた「東京学芸大学附属小金井小学校」です。現在は1000mに短縮されていますが、男子は赤い褌、女子は水着に腰紐をつけて継続中です。
鵜原理想郷から海中公園を望む
<地層の観察>
鵜原理想郷の崖には、規則的な縞模様の地層が見られます。火山灰質の砂や溶岩の小石が薄い板状に何枚も重なっています。この地層の中から化石を発見することができます。一つは有孔虫です。数ミリメートルの小さな化石ですが、虫めがねで拡大すると巻き貝のような構造が観察できます。もう一つは生痕化石といって、ウニやゴカイなどの生き物が動き回ったり、穴を掘ったりして棲息していた痕跡です。
地層の観察はじっくり時間をかけること
<その他の見どころ>
鵜原理想郷に隣接して、「勝浦海中公園」と「千葉県立中央博物館分室」/「海の博物館」があります。海中展望塔からはメジナやイシダイなどの天然の魚を見ることができ、博物館では磯の生き物観察や海のクラフトなどを体験できます。
<勝浦朝市>
300年の歴史がある朝市は早朝から11時頃まで開いています。東京駅9時発の特急「わかしお」に乗ると、「勝浦駅」には10時半に到着するので、できれば新宿発7時頃発の「新宿わかしお」の利用をおすすめします。今回は野菜や干物を売っているお店が何軒か開いていました。
300年の歴史の「かつうら朝市」
干物屋店先に小さな法螺貝が入った籠が置いてありました。「あげるから持って行ってイイよ」と声をかけられ、「漁の網に入ってくるんだよ。
ボウシュウボラっていって、食べてみれば身が大きくて美味しいよ」。1個108円の値札が付いていましたが、貰える物は遠慮なく貰うことにしました。ちょっと気が引けたので鰺の干物を3枚買うことにしました。お店の人との会話を楽しんでいると、買わなくてもイイものを、ついつい買ってしまいます。
<勝浦港・市場食堂「勝喰(かっくら)」>
お昼ご飯は勝浦港の市場食堂「勝喰」です。今日のお目当てです。1~2時間待ちが当たり前のお店なので1ヶ月前から予約しておきました。今日のお勧めは「初カツオの刺身定食1,200円」と「勝喰丼1,000円」です。海鮮丼はご飯の上にお刺身が乗っているのが普通ですが、こちらのお店では冷たいお刺身は冷たい状態で食べて貰いたい主義でお皿に盛りつけて出て来ます。カツオの刺身とマグロの「なめろう」が大きなお皿にてんこ盛りでした。写真を見て頂ければ、その圧倒的な豪華さが分かって貰えると思います。
大きな窓から勝浦港を眺めながら昼食
海の幸にはお酒が付きものですから、地酒の「東灘(あずまなだ)」も注文しました。「西の灘」に対して、「東の灘」として勝浦の海の幸にぴったり合うと説明がありました。端麗ですっきりした飲み心地で美味しかったです。
勝浦港はカツオの水揚げ量日本一です。港には最新型らしい三重県の漁船が3艘停泊していました。清掃作業をしていた船員さんは東南アジア出身でした。「日本に来て10年くらいになる。お金になるから楽しい。船は15人乗りで近くの海で漁をしている。捕った魚はその日のうちに水揚げする」と、日本語でスラスラと応えてくれました。
勝浦港に停泊していた漁船
鵜原理想郷の夢の跡は今も
千葉、房総半島は外房、太平洋に突き出た明神岬一帯は2㎞余のリアス式海岸に縁取られ、「鵜原理想郷」と呼ばれています。
海原を見晴るかす「大木台」にはモニュメント「幸せの鐘」が海を背に鈍色に光り、「鵜原島」を望む「毛戸岬」、断崖絶壁の「日鳳岬」、広い眺望が楽しめる「黄昏の丘」と続いて、「鵜原海岸」は、「日本の渚百選」にも選ばれた景勝地です。
この人間臭い「理想郷」という名には、関東大震災で挫折した壮大な別荘地分譲というリゾート建設の夢が関係していたことを聞くにつけ、それにしてもなぜ、これまでほぼ当時のままの自然景観が残されているのか? 興味が湧きます。
三島由起夫が短編「岬にての物語」で描いた「類ない岬の風光、優雅な海岸線‥‥」と形容したこの地を訪れ愛した画家や文人達は、世に紹介する労をとらず、知人にさえ漏らすまいとつとめている人さえあったとされていますが、案外そんなことも功を奏したのではと、勝手に想像しますが。
さて、大木台から東に目を転じると、長く延びた「八幡崎」を背に海中展望塔が浮かんで見えます。このエリア・「勝浦海中公園」には水平線を眺めながら歩く海上道路が架かり、さらにこの夏には敷地内に大規模なレストラン&天然温泉スパがオープンの予定とか。少子化や若者の流出に直面している地元勝浦市の人口流入増加を目指す、これも現代のリゾート建設ではあります。
木の間隠れに海を見ながら山道を下りると、ふと爽やかな甘い香りが。白い小花をたくさん付けたトベラの木があちこちで香っていて、砂浜近くの足元には白いハマダイコンの群生、ハマエンドウの紫色も目を引きます。初夏にはヤマユリも咲き香るという一帯の緑と前方の荒々しい断崖の対比に、光る海が印象的でした。
( 文と写真:横山 禎子 )
マルバウツギの花も ハマエンドウ
フットパス専門家講座 スミレ博士と歩く春の高尾山と植物観察
2023.04.09
[ 講師:日本植物友の会副会長山田 隆彦 ]
スミレの聖地、高尾山の裏道を楽しむ
4月9日(日)天気:晴参加者:16名
高尾山、休日は特にすごい人出でケーブルに乗るのに長い列ができる。待っておれず、しかたなく1号路を歩いて登ることが度々ある。
「みどりのゆび」では高尾山は2回目となる。前回同様、混雑をさけて、高尾山口から大垂水までバスを利用し、城山から日蔭沢へ抜ける人の少ないコースを選んだ。
このルートはスミレの豊富なところでもある。例年、4月10日頃がスミレの見頃であるが、今年は2週間程花期が早く、既に咲き終わったものが多く残念であった。
高尾山のことを少し話したいと思う。高尾山は都心から50㎞のところにあり、海抜600mである。奈良時代に開創された「高尾山薬王院有喜寺」があり、森が守られて来た。また、暖帯林と温帯林の境目にあることで植物相が豊かである。
尾根を境に北斜面には、イヌブナを主とする落葉紅葉樹林が発達し、南斜面には暖帯系の常緑広葉樹林のカシ類、ヤブツバキなどが見られる。約1500種の植物が記録されている。高尾山で見つかった植物は約60種あり、スミレでは、タカオスミレ、アカコミヤマスミレ、シロバナヒナスミレがあげられる。
タカオスミレを観察する参加者
目についた主な植物について触れたいと思う。
ニリンソウキンポウゲ科
名前は「二輪草」だが、花が2個一緒に咲いていることは少なく、片方が蕾の状態であることが多い。中には3個もつけているものもある。キンポウゲ科には毒草が多いが、このニリンソウの葉は、加熱すれば毒性はなくなるので山菜で楽しめる。ただ、猛毒のトリカブトの葉とよく似ていて、毎年、誤食で事故が起きている。注意が必要である。北海道~九州に広く分布し、林縁や林内、草地にふつうに生える。
ニリンソウ
ニオイタチツボスミレスミレ科
城山手前の急な登りに数株あった。香りを持ったスミレで、群生していると側を通ったときに甘い匂いがして、その存在がわかる。タチツボスミレとよく似ているが、大株にならず、花数が少ない。花は濃い紫色をして中心部の白色が目立つ。
もう一つの特徴は、花茎や葉柄などにビロード状の毛が生えていることである。また、茎の上についている葉は少し細長い楕円形をしているものが混じる。北海道(西南部)~九州の丘陵地で、明るくすこし乾き気味の林床や林縁に生える。
ニオイタチツボスミレ
アケボノスミレスミレ科
ニオイタチツボスミレのあった急な登りに点々と見られた。地上茎のないスミレで、葉に先立ってピンク色の花を咲かせる。名前は、花の色を曙の空に連想してつけられた。北海道~九州の山地で林床や林縁に生え、少し乾き気味の林内に多い。
アケボノスミレ
タカオスミレスミレ科
高尾山で見つかり名前がついたスミレ。ヒカゲスミレの葉の表面がこげ茶色から黒紫色になるもの。ヒカゲスミレの品種となっているが、花期を過ぎると葉の色は消え、緑色になり、ヒカゲスミレと区別はできない。タカオスミレを認めない研究者もいる。せっかく高尾山の名前のついたスミレなので、私はタカオスミレの名前を使っている。
タカオスミレ
フタバアオイウマノスズクサ科
「京都加茂神社」の葵祭に関連する植物で名前はよく知られている。この葵祭ではフタバアオイの葉を冠や牛車などに飾る。徳川家の「三つ葉葵」は、この葉の図案化からのものである。花は3-5月に、2枚の葉の柄の基部に1個下向きに開く。花弁はなく、3枚ある萼片の上半部は外側に反り返っている。本州~九州の山地に広く分布する。
フタバアオイの花と葉
高尾山は交通の便もよく、植物の豊富なところ、訪れる人は多いが、比較的安全なので、植物観察にはお勧めのところである。季節を変え種々の花を楽しんでください。(文と写真:山田 隆彦)
わくわく、ドキドキのスミレ観察会
この度はスミレ観察会に参加させていただき、ありがとうございました。一日であんなにたくさんの種類のスミレに出合えるとは驚きでした。スミレ愛にあふれる山田先生をはじめ、参加者の方方にも、いろいろな植物をたくさん教えていただき、とても楽しく、充実した一日でした。今もニンマリしながら写真を眺め、余韻に浸っております。
◆最初にメモしたのはミヤマキケマン。ムラサキケマンの親戚みたいな花。
ミヤマキケマン
◆ツルには見えないツルカノコソウは、ほんのりピンクや白の小さな花が集まって、かわいい姿でした。
◆エイザンスミレは、最初は特徴的な葉だけ見せてくれて、進んでいくうちに花も見られるようになって、テンションの上げ方が絶妙。花を見たときは嬉しさ倍増でした。
◆這いつくばってクンクンしてみたニオイタチツボスミレ。匂いはわからなかったので、またいつかかいでみたいな。
◆小さくても大きくても、ちゃんと破れていたヤブレガサ。
◆衝撃の雄雌連携プレーで命をつなぐミミガタテンナンショウ。葉も斑入りのようなのがあったりして、いちいち立ち止まりたくなる植物でした。
◆並んで咲いていたマルバスミレ。白い花びらも丸くてかわいかったです。
◆ナツトウダイは面白い形の花が印象的。最初「ナットウダイ(納豆台?)」だと思い込んでおり、途中で「ナツトウダイ(夏灯台)」だとわかって笑っちゃいました。
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ナツトウダイ
◆青空をバックに、ワインレッドの花と黄緑色の新葉が映えていたミツバアケビ。
◆予想外にちっちゃくて、花びらがクルンと丸まったニョイスミレ。
◆最後の方でやっと会えて感動したタカオスミレ。葉が茶色がかっているのはカッコイイですが、これもUVケアなのでしょうか?
◆ヨゴレネコノメ、名前を気の毒がられて、きっとみんなに覚えられていますよね。
これまでスミレの種類はタチツボスミレしか知らず、違うのもいろいろ覚えてみたいと思っていたところでした。この観察会でいっきに頭の中が飽和状態になりましたが、少しずつ復習して整理・確認中です。でもそんなことしてる間にスミレの花の季節は終わってしまいますね。早くも、また来年の春が楽しみです。
(文:玉置 真理子写真:山田 隆彦)